「振り返るな」のタブー 愛する妻を永遠に失い、最期は八つ裂きにされてクビだけ拾われたオルフェウス(ギリシア神話より)
竪琴の名手「オルフェウス」。ある日、愛する妻「エウリュディケ」が毒ヘビに噛まれてなくなってしまいます。悲しみにくれ、冥界まで妻を取りかえしに行くオルフェウス。美しい竪琴の音色に、冥界の番犬ケルベロスも、三途の川の渡し守カロンも、心を奪われます。オルフェウスの音楽は、冥界の王ハデスの気持ちまで動かし、妻エウリュディケを連れ帰ることを許されました。地上に戻るまで絶対に後ろを振り返ってはならない、という条件付きで。
二人は、前後に並んで地上を目指しました。自分の後ろから本当に妻がついて来ているかどうか、気になってしまったオルフェウスは、あともう少しというところで、後ろを振り返ってしまいます。その瞬間、しっかり後からついて来ていた妻エウリュディケとは、引き離されてしまいました。
再び悲しみに沈んだオルフェウス。美しい青年だったオルフェウスには、言いよって来る乙女が後を絶ちませんでしたが、オルフェウスは一切応じません。祭りの夜の狂乱の中、怒った乙女達によって、オルフェウスは八つ裂きにされ、竪琴とともに川に流されてしまいました。
19世紀象徴主義を代表する画家ギュスターヴ・モローの作品です。竪琴に乗せてオルフェウスの頭部を拾い上げた娘は、オルフェウスと見つめ合うかのように、静かに視線を落としています。細部まで美しく描き込まれた衣装が、荒涼とした景色の中で引き立ちます。トラキアの娘がオルフェウスの頭部を運ぶこの場面は、モローの創造によるものです。美しい娘が、竪琴に乗せた頭部を大事そうに抱える図は、見る人の興味をかき立てます。